院長の大槻です
健康寿命とは、日常で介護を必要とせずに自立した生活のできる期間を指します。
厚生労働省は今年、初めてその数値を表しました。
2010年の平均は男性70.42歳、女性73.62歳でした。
一方、同じ2010年の平均寿命は男性79.55歳、女性86.30歳。
両者の間に男性約9年、女性約13年のギャップがある。
これは、介護などを必要とする不健康な期間にあたります。
厚労省は、運動や食習慣などを改善することで、健康寿命を1.6年以上延ぱすことを提案していますが、高齢になるとどうしても、認知症や寝たきりといった問題が生まれます。
この問題に、口腔、つまり、口や歯の健康が深く問わっているのです。
また、脳卒中や心臓病、糖尿病などの発症と悪化にも、口腔が深く関わっていることが分かっています。
自分の歯がたくさん残っていると、全身疾患のリスクが低く、長生きになる…というデータが、様々な国の研究者から報告されています。
がん、認知症も
具体的に説明しましょう。
歯がある人とない人を比べると、残りの寿命が全然違います。
歯を失った人のその後を観察すると、急に体に色々な症状が出たり、生活習慣病の発症率が高くなったりしているのです。
このほかにも最近、ショッキングなデータが出ています。
歯がなくなることは、がんの発症や死亡に関連があるというのです。
歯がないことは、特に消化器系のがんの発症と関連が高いと言われています。
今後、日本でますます大きな課題になると思われるのは認知症です。
認知症は現在、65歳以上のお年寄りの約5~10%の方がなっています。
私の研究所では、その数が今後どんどん増えると予測しています。
この認知症についても、歯との関係について色々な報告があります。
健康な歯が多いこと、むし歯があってもちゃんと治療していること、もしくは歯が残っていることは、認知機能と関係があるというのです。
具体的には、高知県に住む1000人近い高齢者の認知機能について、自分の歯の数との関係を調べました。
すると、男女ともきれいな相関が見られました。
つまり、自分の歯の数が多い人ほど、認知機能がしっかりしているのです。
この人たちの中には、高脂血症や糖尿病などにかかっている人もいますが、血糖値やコレステロールの値と、認知機能との間に相関関係は見られませんでした。
歯は、認知機能を予測する指標になることがわかります。
唾液分泌促して
高齢の方にとって、肺炎は深刻な疾患です。
日本人全体の死因に占める肺炎の割合は約10%ですが、そのうち96%までが65歳以上の高齢者です。
年を取ると、飲み込む機能が低下するため、誤嚥(ごえん)性肺炎が原因で亡くなる人が多いからです。
そうしたことから、口の中をきれいにする「口腔ケア」をすると、肺炎の予防になると言われています。
皆さんは通常、うがいや歯磨きをやっていると思いますが、「機能的口腔ケア」も加えるとよいでしょう。
これは、顔の表情をうまく作ったり、口の周りの筋肉を鍛えたり、舌の運動をしたり、唾液腺のマッサージで唾液の分泌をスムーズにしたりすることです。
こうしたことを日頃からやると、口腔機能の維持につながり、肺炎など様々な病気の予防になります。
歯の健康維持とともに、口腔の機能を維持すると、おいしく食べられます。
これは、健康寿命を延ばすことにつながるのです。