2023.05.30

認知症と歯の本数

こんにちわ院長の大槻です。歯の数が少なくなると認知症がすすむってほんとなのでしょうか?

自前の歯が少ない人ほど、認知症になるという残酷な事実

高齢化が著しく進展したわが国では、2015年の時点で認知症の患者数が約440万人、65歳以上のおよそ7人に1人にものぼり、これに「軽度認知障害(MCI)」と推計される約380万人を加えると、じつに高齢者の4人に1人が認知症あるいはその予備軍という、恐るべき事態になっています(図1 厚生労働省発表)。

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図1(出典)レオロジー機能食品研究所「認知症の世界と日本の状況」

 

認知症が発症する原因については、脳梗塞などの脳血管障害が原因になるものと、脳細胞が死滅し脳がスカスカに縮んでしまうアルツハイマー型の、大きく2つに分かれますが、近年はとりわけアルツハイマー型の割合が急増中。

人生100年時代へと本格突入した日本にとって、その予防こそ最も重要な医学的課題のひとつであることは言うまでもありません。

 

認知症の恐ろしいところは、ガンや心筋梗塞、脳卒中などのように直接的に死につながらない代わり、自分やその周囲に関するかけがえない記憶、人間らしい思考力やふるまいがどんどん失われ、最後には自分が自分でなくなってしまうことにあります。

それだけに、介護をするご家族――配偶者やお子さんたちの悲しみやつらさは、ガンなどの病気より深いともいわれ、なんとしてもこれを予防したいと思うのは当然といえましょう。

 

そして――その予防のカギとして大きくクローズアップされているのが、ずばり“歯の健康”です。

 

認知症と歯の健康の関係については、これまでにもアルツハイマー型認知症の患者の脳から歯周病菌が発見されるなど、何らかの関係があるとみなされていましたが、最近の研究ではその点がより明らかになっています。

なかでも衝撃的なのは、残っている歯の本数と認知症発症リスクの関係で、残存歯が少ない人ほど認知症になりやすい、いいかえれば自前の歯が残っている高齢者に認知症の患者が少ないことがわかったのです(東北大学医学部・歯学部合同研究)。

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図2(出典)介護ポストセブン「「口腔ケア」で認知症が改善する理由 認知症専門医が詳しく解説!」

 

それによると、脳が健康と判断された高齢者では平均14.9本残っていた歯が、認知症の疑いありとみなされた高齢者の場合、平均9.4本と大きな開きのあることが判明(図2)。

さらにMRIによる脳の画像検査でも、残存歯の少ない人ほど大脳の容積が小さくなり、特に記憶をつかさどる「海馬(かいば)」や、考えたり思ったりの高度な知的活動にかかわる「前頭前野」などの大切な部位がいちじるしく委縮していたといいます。

 

正しく噛めないと、知らないうちに脳がスカスカに!?

では、なぜ自前の歯が少ないと脳の容積が小さくなり、結果として認知症の発症リスクが増えてしまうのでしょう?

それは、咀嚼(そしゃく)数すなわち噛む回数に関係があります。

 

かつて、愛知県で4年間にわたり行われた大規模調査では、65歳の高齢者のうち残存する歯が少なく、義歯やインプラントもないまま「噛みにくい」と感じている人の場合、「なんでも噛める」という方たちに比べて、認知症発症のリスクが1.5倍にも増加することが明らかになりました(グラフ1)。

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グラフ1(出典)認知症とは(種類や原因について専門家に取材)「噛む力と認知症の関係。歯の本数が少ないとリスクが増える⁉

歯というのは、食べ物を切ったり、すりつぶすことを最大の働きとしていますが、そのためのたんなる“道具”ではなく、りっぱな“内臓”であることを忘れてはなりません。

実際、歯の中心(歯髄)には他の臓器と同じように血管もありますし、神経も通っています。

なかでも歯の神経の繊細なことは、口の中に入った太さ数ミクロンの髪の毛などの異物さえ、気になって吐き出してしまうなど、じつに大変なものです。

そして、しっかり噛むという動作は、顔や頭にかけて数多くはしる細かな筋肉(咀嚼筋)を動かし、血管や神経の働きを活発にします。

 

血流というのは中心部の太い血管はもちろん、末端の細い血管までしっかりと血を送ることで、いっそうよくなります。

噛むという動作は、そのつど咀嚼筋が血管にポンプのような刺激を与えますので、全身の血流、なかでも位置的に近い大脳への血液の流れをうながし、しっかりとエネルギーが供給されるのは当然です。

 

一方、神経は脳からの「噛め」という指示をあごなどの筋肉へと伝え、逆にきちんと噛む動作が刺激を脳へと電気信号として伝達します。

脳の神経細胞のひとつひとつは、シナプシスという部分でつながっていますが、このシナプシスをひんぱんに刺激されるほど、脳全体が若々しく元気に。

逆に、その刺激がなくなると、使われない脳神経はどんどんと死滅していき、脳全体がスカスカにちぢんでいくのです。

そして、一度死んでしまった脳神経細胞は二度と再生することはありません。

 

このように、正しく噛めることはそのまま大切な脳を守り、アルツハイマー型認知症を予防します。

怖い認知症を防ぐには、自前の歯を失わないようにケアし、噛む力をベストな状態に保つこと――そのためにも、咬み合わせのハーモニーを調和させて全身をストレスから解放し、また歯周病をしっかり予防しましょう。

 

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